03 2 / 2012

"「理解できるわな」
「ああ、もちろん理解できる」
 私たちは理解理解と繰り返した。彼と私は時々このように、口に出して『自分が他者を理解していること』を確認し合う。とても共感など出来ない主義、思想、趣味でも、理解は可能でありたい、という共通の認識からくる二人ひと組の口癖だ。遠い他者と自分たちの間だけでなく、彼と私の間にも当然ながら共感しがたい主義、思想の食い違いは多々あった。死刑に対する賛否などもその一例だ。しかし、お互いに相手の考えることを『それも考えとして成立する』と理解することは放棄するまい、と考えていた。
 ―― 第八章 生者たちの繭 より"

  1. acaciacasis posted this